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UKの靴の魅力
 ブリテン靴ことはじめ
皮革でつくられた靴は、原始ブリテンのころからよくはかれていた。当初はソールとアッパーに穴を開け、ひもでつなぎあわせただけという、モカシンの原型のようなものだったとされる。ローマ統治時代は、ローマ的なオープン・トゥ(つま先の開いたもの)のサンダルのほかに、ブリテン独特のクローズ・トゥ(つま先の閉じたもの)のスタイルもみられた。ローマ後になると、人々は自分たちの気候風土にあったクローズ・トゥ・シューズを積極的に作り始め、9世紀には初歩的なつくりのブーツもつくられるようになった。以後、ブリテンにおいて靴のスタイルはさまざまな変遷を遂げていく。つま先の形、ヒールの高さ、素材装飾、シルエットとともに、そのデザインは流行を繰り返し、ときに権威や性を象徴するものとしても注目された。

中世のさなかには、ポインテッド・トゥが好まれて「サソリの尾」とも呼ばれた。ヘンリー8世のころにはスクエア・トゥが流行。エリザベス一世の統治時代には高いヒールが好まれ、チャールズ一世の時代には派手な膝丈のブーツに人気が集まった。スクエア・トゥが男性的、ポインテッド・トゥが女性的であるとされたのはバロック全盛のころ。1660年代には靴を固定するバックルも開発され、画期的なスタイルとして注目された。ロココの時代には、レディースでは刺繍やトリミング、金モールなどの華やかな装飾がもてはやされ、メンズは黒革でとがったつま先に低いかかとという組み合わせが流行した。


 靴の名産地ノーサンプトン
18世紀まで、英国はヨーロッパ諸国の中でも「田舎の国」とされてきた。質実剛健で保守的な英国の貴族が頭角を現してきたのは、産業革命以後のこと。貴族たちは独自の質実剛健な文化を開花させ、その文化は大英帝国の栄華とともに世界へと影響を及ぼしていくようになった。

世界に知られるブリティッシュ・シューズのイメージを確立させた立役者は、かつて靴の聖地としてうたわれたノーサンプトン(Northampton)。ここを拠点に活躍した人々の存在なくして、いまの英国靴の名声は成り立たない。

ノーサンプトンはロンドンから北西に約100キロ、イングランドのへその部分に位置する。立地的にブリテン各地への流通に適したことから、イングランドでももっとも古いマーケットタウンのひとつに数えられる。中世にはすでに王室に靴を献上するなど、良質な革製品ができるところとしても知られていた。この小さなマーケットタウンが世界的に名を上げ始めたのは18世紀に入ってからのこと。ナポレオン戦争のための軍需を引き金に、19世紀に入ってからは鉄道の普及などもあって流通網が発達し、産業は著しく成長を見ることになる。


 グッドイヤー・ウェルト製法
19世紀中庸、アメリカでグッドイヤー・ウェルト製法と呼ばれる半機械化による生産システムが開発された。これにより英国の靴産業も大きく変わっていく。それまで一つひとつ手作業で限られた数しか生産できなかったものが、半機械化により効率的に生産できるようになったからである。グッドイヤー・ウェルト製法の登場は、ノーサンプトンの隆盛に拍車をかけた。周辺エリアは靴工房であふれかえり、1800年にノーサンプトンの人口は7,000人だったものが、1860年には3万3,000人に、1900年ごろには8万7,000人まで膨れ上がり、名実ともに靴の都として発展した。人口の多くが靴職人や関連業者たちで構成された。19世紀後半から20世紀前半にかけては、いまに知られる有名ブランドが相次いで産声を上げ、「ビスポーク」つまりbe spoke(注文)のスタイルが定着する。


 産業構造の変化
20世紀に入ってからも技術開発がすすめられ、より丈夫で高品質の靴が流通するようになる。そしてさまざまなスタイルとデザイナーが登場し、トレンドはめまぐるしく移り変わった。ノーサンプトンは20世紀に入っても靴生産の中心地であり続けた。しかし1920〜1930年の軍需景気をピークに、次第に他産業に押されるようになっていった。戦後の英国内の人件費の高まりとともに、シュー・ビジネスも変容を遂げていく。大量生産拠点は人件費の安い海外へと次々と移転され、20世紀後半にかけてブランドの淘汰が進んだ。

21世紀にはいってから「ドクター・マーチン」が中国に工場の全面移転を発表。また、英国が世界に誇る老舗ブランド「チャーチ」はプラダグループ、「ジョン・ロブ」はエルメスの傘下に入るなど、産業構造の変化が著しく進んでいる。今日、ノーサンプトンでは時代の流れを柔軟に受け止めて生き残ってきたわずかな工場が操業するのみとなり、町の裏道をすこし行くと小さな靴工場の名残が偲ばれる。


 伝統とモダンの融合
ブランドの数こそ減ったものの、昔ながらの製法はいままた見直され始めている。20世紀後半に誕生した「ティム・リトル」のように、最近になって新しいブランドも誕生し、伝統的技術を生かしながら現代的要素も取り入れて成功している例もある。若者の心を捉えるスタイリッシュな「ジェフリー・ウエスト」や、前衛的な個性が光る革命児「パトリック・コックス」などの人気も衰えを知らない。

かつての名産地ノーサンプトンも、これまでの歴史を生かして美術館(Northampton Museum and Art Gallery)をオープンし、靴文化の魅力を今に伝えるなど、靴に関する営業企画、教育や研究に力を入れ始めている。大量生産の拠点はもはやブリテンではなく、海外に移っていったのは事実だが、ひとつひとつ丁寧に作り上げられるブリティッシュメイドの靴はいまも魅力を放ち続け、根強いファンの心をとらえてはなさない。

人のぬくもりを伝えるビスポークを愛し、大量生産から一線を置いた手作り靴職人を目指す人々にとっても、英国は憧れの土地であり続けている。

 ブリティッシュ・シューズの今日を描くコメディ
 映画「キンキー・ブーツ」
2005年にイギリスで公開された映画「キンキー・ブーツ」(日本公開は2006年)は、ノーサンプトンの傾きかけた靴工場の経営を任された男性が、復興をかけて男性用の風俗ブーツ「キンキー・ブーツ」の生産を思い立ち、実際にショーに発表する道中が語られるコメディだ。「フルモンティ」や「カレンダーガール」に見られるような、ワーキングクラスの現実と社会批判を織り交ぜたブリティッシュ・ユーモアが見どころ。靴生産の老舗ノーサンプトンが「靴文化」の発信地として新たに注目を集めた作品でもある。

Kinky Boots
http://www.thefilmfactory.co.uk/kinkyboots/index_flash.html