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コミュニティケア〜イギリス介護制度の一例
イギリス人はシニア世代に達しても、自分の子供に生活の世話を頼むことは少ない。このような文化的背景の中では「シニア世代の生活を支えるのは同じシニア世代」という図式が生まれてくる。

この図式は長年培われたイギリス的伝統のようなものであるから、それをサポートする制度がイギリスには備わっている。その代表的なのものが「NHS & Community Care Act 1990」という法律で設定されている「コミュニティケア」という制度。

ホームドクター (General Practitioner - GP) 制度が国民の健康管理の基本となっているイギリスでは、GPが自分の診療所に登録してある75歳以上のシニア世代の日常の健康状態を常に把握しておくことが義務づけられている。この制度では、健康管理のほかに、「健康的な生活を送る」ための生活態度や状態全般にも、注意がそそがれている。

彼らに介護や補助が必要と判断された場合は、地域自治体のソーシャルワーカーに連絡が行き、家の段差の改善や介護ベッドの手配等が必要に応じて支給される。また、該当者の健康状態に合わせて、コミュニティケア制度に登録されている看護士が自宅に派遺されて、手当てを行なうこともある。その上、食事の仕度や買物が困難な場合は、介助の人が派遺されたり、調理済みの食事が配達されたりする制度などもあり、全ての介護を引き受けるのは無理としても、介護される人にも介護する人にも負担が軽減されるような目配りがされている。

以下にその制度の下で、重病のご主人を介護するV・Gさんの例を紹介してみる。

V・Gさんは、今年80歳の女性。84歳になるご主人のJさんは、70歳を過ぎる頃から徐々に身体の震えがとまらくなり、パーキンソン病と診断された。以来10年以上にわたって、彼女一人でご主人の介護を続けている。

発病時は彼女自身も体力に自信があり、Jさんの病状もまだ安定していたので、Jさんの定期検診以外は社会制度にあまり頼ることなく介護を続けていた。が、V・GさんはJさんの発病以来ぐっすり寝たことがなく、また80歳を目の前にして自分自身の体力の衰えを感じはじめた。そしてJさんも徐々に椅子に座っていること自体が困難な状態になり始めて途方に暮れ始めた頃、一人息子のPさんがGPに相談してはどうかと言ってきた。

V・Gさんが早速GPに連絡を取って現状を話すと、1週間後にはGPから連絡を受けたソーシャルワーカーがやってきた。ソーシャルワーカーはV・Gさんの話を聞くと共に自宅の内部も調べ、2階にトイレを含むバスルームと寝室があること、暖房がストーブだけであることを記録。
その2年後、V・Gさんの自宅にはセントラルヒーティング、2階まで座ったまま移動できる電動イス、段差を気にせずに利用できるシャワー室、更に電動で角度が調整できるベッドも設置された。驚くことに、これらは全て政府からの補助金でまかなわれていて、V・Gさんがしたことといえばソーシャルワーカーから手渡された書類類にサインをしただけとのこと。V・Gさんは言う。

「Jの病気は不幸なことです。でも、 おこってしまったことは仕方のないこと。それをどのくらい軽減するかというのが私の仕事だったのですけれど、さすがに歳には勝てません。でもこのシステムのおかげで、なんとかJを自宅で

V.G.さんの電動イス

介護することができます。ヘルプを受けてはいますが、こうして自宅をベースにして2人で生活していると、『自分たちは自立した生活をしている』と自覚できるんです。」

V・Gさんの言葉は、「コミュニティケア」の考え方を的確に表している。2001年の国勢調査によれば、75歳以上のシニア人口男性の22パーセント、女性の45パーセントが独り暮らしのイギリス社会。その理由は「仕方なく」というよりは「自立した自分の人生を楽しみたい」という、自分自身の積極的な人生計画からきているようだ。 イギリス人が「自立」にこだわるのは、「自立」が自分自身への自信につながるという研究レポートもある。

「加齢」という、避けて通ることのできない事実の前に、徐々に「完全自立」の範囲は狭まってくるが、この「コミュニティケア」制度のように、「できるところ」と「できないところ」を把握して、「できないところ」をサポートしてもらえれば、シニア世代も様々な方法で自立生活を楽しむことができる。

福祉国家イギリスの懐の深さを示すこの制度だが、この制度は労働人口が払う収入の20-30パーセント以上という高率の税金でまかなわれている。労働年齢にいる人々は「税金が高い」ともちろん嘆く。しかしシニア世代にいる自分の両親が、その税金の恩恵を受けながら「介護生活」という重圧の中にもシニアライフを楽しんでいるのを見ると、その税金の高さも仕方がないのかも・・・と思うのだ。