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ヘンリー王子のイラク派遣を断念
2007年5月16日、英国陸軍のダナット参謀総長は、チャールズ皇太子と故ダイアナ元妃の次男で、王位継承権3位のヘンリー王子のイラク派遣を断念する考えを明らかにした。

ヘンリー王子は昨年4月にサンドハースト王立陸軍士官学校を卒業。部隊に配属された際、本人自ら戦地であるイラクかアフガニスタンに派遣されることを強く希望し、その際の待遇も同僚と同じであることを申し出ていた。そして、英国防省は今年2月に王子のイラク派遣を発表。当初から、王子のイラク派遣に関してはさまざまな問題が取り沙汰されていた。ヘンリー王子のイラク派遣が発表されて以来、イスラム過激派などが王子をテロの標的にすると予告してきている。また、派遣先であるイラク南部では、4月だけで英兵12名が死亡したことをうけ、国防省は英国軍に対する攻撃が激しさを増していると判断。イラク政府側からも、王子の派遣を取り止めるよう求められていた。

テロの標的にもなりかねず、所属部隊さえも巻き添えになる可能性が高いにもかかわらず、なぜ、ヘンリー王子は戦場に行くことを希望し、英国政府もそれを一度は容認してしまったのだろうか。実は、その背景には、王室と軍との歴史的な関係がある。

高位の王族が戦地に派遣されることは決して珍しいことではない。たとえば、1743年にはジョージ2世がオーストリア継承戦争で英軍を率いてフランス軍を破った。また、1916年にはエリザベス現女王の父ジョージ6世が海軍中尉としてデンマークで第一次大戦を戦い、夫フィリップ殿下も第二次大戦で昇任した海軍軍人である。そして、もっとも近いところでは、1982年にヘンリー王子の叔父アンドリュー王子が、フォークランド紛争時の海軍ヘリコプター操縦士として、現地に派遣されている。

立憲君主制である英国では、軍の最高司令官は、実質上は首相でありながら、名目上は今なお国王となっている。つまり、王室関係者の多くは陸海軍で訓練を積み、軍要職を歴任するケースが多く、ヘンリー王子もそれを望んでいたと考えられる。とはいうものの、さすがに国王直系の長男の派遣に関しては、慎重にならざるを得ないようだ。

例えば、ジョージ6世の場合は兄エドワード8世が廃位したために急遽戴冠しただけで、出征時には彼の即位は想定外だったはずだ。同じく、現在、王位継承権第1位のチャールズ皇太子も、戦闘機の操縦など数々の訓練を受けてはいるが、戦場とは離れた世界で生きている。また、ヘンリー王子の兄で王位継承権第2位のウィリアム王子は、大学進学のため、陸軍士官学校の卒業が遅れたことを理由に当初から現地派遣はないと発表されてはいるが、チャールズ皇太子の年齢を考えると、理由はそれだけではないだろう。

参謀総長によれば、この結論は、発表直前に彼自身がイラクを訪問し、情勢を分析、検討を重ねた結果であるということだ。この結果を受け、ヘンリー王子は、この決定に失望してはいるが、軍人としての経験は引き続き積んでいきたいとしている。
(執筆者 西村あかね)