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緊急レポート ドイツW杯予選 イングランド対トリニダード・トバコ
トリニダード・トバコを指揮する世界的名将ベーン・ハッカのゲームプランは完璧だった。ディフェンス時には、全ての選手が自陣深くまで戻り、相手の攻撃を何としても跳ね返すという戦術をとっていた。確かに、このトリニダード・トバコの赤いユニフォームの選手達がつくる「赤い結界」の中で、イングランドの選手たちは、もがき苦しんだ。しかし、イングランドは、その「赤い結界」の意味を皆無にする至宝ともいうべき「魔法の杖」を持っていた。83分に、イングランドが、その魔法の杖をふりかざした瞬間、「赤い結界」は、無残にも破綻した。イングランドが持つ最強の「魔法の杖」 ―― ベッカムの「世界最高の右足」。右サイド、右足で、魔法をかけるように放たれたクロスは、FWクラウチの頭に寸分の狂いもなく合い、彼はただゴールマウスに押し込むだけで良かった。このゴール後、この試合を落とすと予選突破が厳しくなるトリニダード・トバコは、その組織だった結界を解き、攻撃に重きを置くようになる。そのような展開になれば、イングランドが試合を決めるのは、たやすいことだった。トリニダード・トバコが攻撃において選手を割くようになった分、彼らの守るゴール前にはスペースがポツポツとできるようになる。試合終了間際、そのスペースを利用し、イングランドの「飛び道具」であるMFジェラードのミドルシュートがゴール左サイドネットに突きささった瞬間、イングランドの2大会連続の決勝トーナメント出場は、確かなものになった。

その「魔法の杖」こと、ベッカムの右足が、この試合を決定づけたと言っても良い。右足から放たれた正確無比なキックは、瞬く間に試合の流れを変え、敵陣の智将ベーン・ハッカの術中を見事なまでに粉砕したのだから。しかし、イングランドは、その「魔法の杖」だけでは、勝てなかった。彼らは、その魔法によって鋭さを増す「矛」として、198センチの大型FWクラウチと、さらにDFのテリーとファーディナンドがつくる鉄壁の守備としての「盾」を持っていたために、その「魔法の杖」も最大の威力を発揮したのである。いわば、この「三種の神器」が今の「スリー・ライオンズ(イングランド代表のニックネーム)」を支える恰好となっている。

さらに、今回、新たな武器が加わった。イングランドサポーター、いや世界中のファンが今大会、最大のスター候補生として期待している20歳のウェイン・ルーニーだ。足の怪我により、今大会の出場を絶望視する声さえあったにも関わらず、驚異的な回復を見せ、早くも予選2戦目にして登場。58分に出場した彼は、得点こそなかったものの、ガムシャラに走ってボールをチェースしては、トリニダード・トバコDFにプレッシャーを与えていた。その走りから、足の怪我は完璧に癒えているように見えた。今後、試合感を取り戻していけば、イングランドの飛躍に多大に貢献するのは間違いないだろう。

そして、前回の試合の反省材料であった監督の采配はどうであっただろうか? ―― 選手達が、トリニダード・トバコの鉄壁のDFにもがき苦しんでいる後半戦中盤に、効果的となる交代「オーウェン→ルーニー、キャラガー→レノン」を行う。特に、右サイドに入ったレノンは、度々ドリブルで勝負を仕掛けていき、トリニダード・トバコの守備陣を彼のマークのために引っ張り出し、同じ右サイドのベッカムに、さらなる自由を与える好結果を生み出した。レノンが先制点につながる足ががりを創り出したと言うことができ、彼を送り出したエリクソン監督は、前回とは異なり、采配を的中させたと言える。

近年のイングランド代表チームの中で、最強と言われる今大会のチーム。それを示し始めるかのように、ベッカムという軸を中心に、全ての歯車がしっかりと噛み合い確実に動力を伝え、順調に回り始めた。回転は、試合を重ねるごとに加速度を増してきており、その勢いを止めるには、大変困難な作業を強いられるという印象を、この試合で他チームに与えるのに成功したに違いない。

執筆:坂田 草介

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