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映画にみるイギリス英語と俳優たち
世界中の俳優や俳優を志す人々が目指すのがアメリカはハリウッドだが、その大多数のアメリカ在住の俳優達を振り切ってまで、イギリス在住の俳優をハリウッドが起用するのは何故だろう?

その理由のひとつには「イギリス英語の魅力」という事実があるように思う。そしてこのイギリス英語は、現代アメリカを舞台にしたようなストーリーの映画の場合、大学に勤める「アカデミック」な人々の話し言葉として登場する。

例えば、日本でも人気のアメリカテレビドラマ「フレンズ」の中で、ニューヨーク大学の講師となったロス (デイビッド・シュワイマー)が、講師としての初の授業にいきなりイギリス英語で話出すというエピソードがある(もっとも、彼のイギリス英語はイギリス英語に聞こえないのだが)。これは、そんなアメリカ人の「イギリス英語」のイメージを表した面白いエピソードだろう。

しかしイギリス俳優によるイギリス英語がその本領を発揮するのは、やはり「歴史的なストーリー」の映画にあるといえる。このような映画では、セリフのひとつひとつは、まるでシェークスピア劇を思わせるような言い回しが使われている。

その上、現代の英語で頻繁に使われるアポストロフィーで短くされた2つの言葉 (例: won't, don't) はあまり登場せず、はっきりと will not, do not のように2つの言葉で表現される。このような「歴史」を感じさせるセリフには、アメリカ英語のように流れるようには発音されず、しかも単語のひとつひとつがはっきりと話されるイギリス英語はピッタリくるようだ。

そのイギリス英語の効果の程はどのようなものか?最近の映画の例でこの点を見てみよう。

2001年にアカデミー賞の作品賞などを総ナメにした「グラディエイター」。最盛期のローマ帝国の支配権をめぐる陰謀と裏切りをテーマにしたこの映画には、皇帝マークス・アウレリウスを演じた名優リチャード・ハリス、グラディエイター達を統括するプロキシモを演じたオリバー・リードなど、多くのイギリス人俳優が起用されている。

その誰もが主役ではないのだが、その美しいイギリス英語で演じられる重厚な演技で、全体の流れに華を添えている。このような映画の中でイギリス英語を話すことの利点は、セリフの中の言葉、言葉の切れ目に緊張感を含めて、舞台効果を盛り上げることができること。例えばこの映画の最初の方で、英俳優ジョン・シュラプネルの演じる政治家ガイアスが、将軍としてのマキシマスの政治的権力を危惧して以下のように言う。

「...with an army behind you, you could be extremely... political (軍隊が後ろに控えていれば、あなたは強い政治的パワーになる)」

文字で見ると何の強い印象もないこのセリフ。ジョン・シュラプネルは、セリフの終りの方にかけてしゃべりのスピードを緩めると共に、political の言葉の前にちょっとした間を持たせて、この単語を印象的にしている。

そのさりげなくも美しいセリフ回しの技術は、まるで舞台劇をみているかのようだ (彼は実際、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーでも活躍している)。この彼の何げない一言は、この映画のストーリーが進むにつれてとても重要になってくることは、映画をみた方ならお分かりだろう。

その他のイギリス人俳優たちも、セリフの合間やセリフの中の単語と単語の切れ目を使って「間」の演技をし、映画に厚みを加えている。イギリス人俳優によるイギリス英語を使うことの魅力が満載といったところだ。面白いことに、主役のマキシマスを演じたニュージーランド生まれのラッセル・クロウ、準主役のコモダスを演じたアメリカ人ジョアキム・フェニックスなど他の出演者も、全て自分達のネイティブアクセントを捨てて、イギリス英語を話している。

ローマ皇帝の甥を演じたアメリカ人子役スペンサー・トリート・クラークは、そのイギリス英語への発音矯正訓練に対して「難しかった」と漏らしている。大西洋を隔てただけで、こんなに異なるイギリス英語とアメリカ英語。しかしイギリス俳優はそんな違いさえ個性の一部としてアメリカ映画界で活躍中だ。

例えばケイト・ウィンスレットやキャサリン・ゼタ-ジョーンズは、米英両方のアクセントを自由に使い分けて出演作に事欠かないし、アンソニー・ホプキンスやショーン・コネリーのようにイギリス英語しか話さない俳優には、そのアクセントを生かした役柄が常にオファーされる。

アクセントを器用に使い分けたり、イギリス英語を自分の個性として主張できるのも、シェークスピアの昔から演劇が盛んな「イギリス」という土地柄が育んだ厚い演劇層に支えられるイギリス俳優の質の良さゆえなのだろう。イギリス英語とその演技力の高さを武器にする英俳優達の活躍は、とどまるところを知らない。