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ケルトの美
「大陸のケルト」のハルシュタット文化やラ・テーヌ文化の時代から、ケルト民族は独自のすばらしい美意識を持っていました。渦巻状やS字状にくねる、生命感たっぷりの文様。動物や人間を幻想的なデザインとして器具や装身具に取り入れるセンス。これらは先史ヨーロッパの美術にはみられないもので、人物や植物を写実的に造形するギリシア・ローマとは対極の思想を表しています。

「島のケルト」の時代になると、ローマの影響を受けて女神像が造られます。しかしそれは平面的で、肉体の存在感なし。どこか不気味さや憂鬱さも感じられる不思議な存在感。見たままの形を超えた謎めいた魅力には、人間を特別視しない思想は受け継がれていきます。

その後、アイルランドではキリスト教の布教が始まると、装飾的な福音書の写本が作られました。ケルトの修道士たちはローマから伝わった古典的な挿絵様式をそのまま模倣するのではなく、うずまき文様の中に人間や動物、植物そして文字を抽象化した、画期的な装飾を施しました。人間と動物と文字が、ぐるぐる回りながら奇想天外な宇宙を創り出しています。この生命力あふれる表現には、やはり彼らの転生思想が感じられます。

長い歴史の中で、聖なる世界を人間の姿をした神様によって視覚化することのなかったケルトの人々。彼らにとって目に見える世界よりも目に見えない世界の方が大切だったのでしょう。

 ケルトのうずまきデザイン
今でも色あせることのない斬新なデザイン。イギリスやアイルランドのクリエイティブなセンスの源を感じます。


 アイルランドの至宝『ケルズの書』
ケルト芸術の最高峰と称される8世紀後半の『ケルズの書』。ダブリン(Dublin)のトリニティカレッジ図書館(Trinity College)に所蔵。人間が文様になる表現が初めて取り入れられた。保存状態が良く、その美しさは必見である。その他にも『アーマーの書』や『ダローの書』などもある。


 『タラのブローチ』
径7センチほどの環状のブリーチに、宝石と共にケルト文様が彫り込まれたアイルランド金細工の最高傑作。直国立考古学・歴史博物館(National Museum of Ireland Archaeology & History)所蔵。8世紀に作られ僧衣などを留めるために使われ、武器にもなったという。